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相澤

Habari za Dar es Salaam No.161   "Uchaguzi Mkuu 2015, Wagombea" ― 2015年総選挙、候補者出そろう ―

根本 利通(ねもととしみち)

 10月25日に総選挙に向けて、与野党の大統領候補、国会議員候補が出そろい、正規の選挙運動が8月22日から始まっている。。前回は与党(CCM)の大統領候補の選出騒ぎ(「大統領官邸への道」)の経過をお伝えしたが、その後の野党大統領候補の選出、国会議員候補、選挙人登録作業の顛末をお伝えする。

📷 彼はそうだったのか、違うのか 『Citizen』2015年8月5日号  まず、大統領選挙であるが、与党(CCM)の候補が7月12日の全国党大会で、ジョン・マグフリ建設相(55歳)に決まったことは前回お伝えした。それを待っていた主要野党連合UKAWA(国民憲法同盟)の候補はなかなか決まらなかった。前回(2010年)に立候補したスラー(CHADEMA)かリプンバ(CUF)のどちらか、それも党勢からいってスラーが順当のように見えるのだが、UKAWAの会議が密室で行われたり、延期になったりでなかなか決まらない。駆け引きでなかなか合意が得られないのだろうと思っていた。

 そのうち、CCM候補のフロントランナーであったが、党大会で規律・倫理面から排除されたと思われるエドワード・ロワッサ(62歳)が脱党するという噂が強くなった。7月28日にロワッサはCHADEMA(民主進歩党)に移籍し、8月4日にUKAWAの大統領候補に決まった。副大統領候補ジュマ・ドゥニ・ハジはCUF(市民統一戦線)副議長でザンジバル連合政府の厚生大臣であるが、正副大統領候補が同一政党所属でないといけないという縛りから、CHADEMAに移籍する形になった。つまりUKAWAを構成する4野党の統一候補という形が整えられた。

 このUKAWAによるロワッサの擁立は大きな波紋を起こし、傷跡も残した。まず、前回の野党の大統領候補者であったスラー(CHADEMA書記長)とリプンバ(CUF議長)がともに指導者を辞任する結果になった。スラーはロワッサがCHADEMAに移籍した前日から公式の場に姿を見せなくなり、メディアの接触には一切応えず、8月3日の党評議委員会で、本人ではなくボエ議長が、「スラー書記長はロワッサの指名に同意していない」と、休職となったことを表明した。CUFのリプンバであるが、ロワッサの移籍後の数日は記者会見にも同席していたが、8月6日にダルエスサラームで記者会見をして、議長職の辞任、離党はせずに一般党員として留まること、政治からの引退、経済の研究者に戻ることを表明して、ルワンダに調査旅行に出かけてしまった。

 リプンバは辞任の会見の際に挙げた理由として「UKAWAは国民の意思を体現した憲法改正案を守ろうとして生まれた同盟だ(「新憲法の混乱」)。それに反対した人を候補に担ぐことはできない」とした。納得させる理由ではある。その後、ロワッサはUKAWAが支持しているワリオバ委員会が提案したタンガニーカ政府を創設する三政府体制の憲法改正案支持を表明したが、付焼刃の感がある。何よりも、CCMの長期政権による腐敗・汚職・金権体質の代表としてやり玉に挙がっていた人物が候補というのもすっきりしないのが人情だろう。リプンバは「今CCMの候補が2人いるみたいだ」と皮肉ってみせた。似たことをムウィニ元大統領も8月23日のCCMの集会で言っている。「ここには野党はいない。CCM-AとCCM-Bがあるだけだ」と。

📷 飛び出す野党指導者 『Mwananchi』2015年8月8日号  ロワッサはCCMの大統領候補指名を求めた時に、全国からダントツの87万人の推薦人の署名を集めて驚かせたが、今回のCHADEMAの指名を求める際には166万人を集めたという。前回(2010年)の総選挙でのCHADEMAのスラー候補の得票が227万票だったから、本当だったら大変な人気なのだ(当選したキクウェテ大統領は527万票だった)。ロワッサの地盤であるアルーシャ州周辺のCCM幹部、一部の国会議員、予備選で敗退したCCM立候補希望者が、CHADEMAに入党する現象が続々と起こっている。8月22日にはロワッサと仲が悪いと言われていたスマイエ元首相までがCCMを離れ、ロワッサ陣営に参加した。

 アルーシャだけでなく、ダルエスサラーム、ムワンザなどの大都市でも、ロワッサの行進にボダボダ、バジャジに乗った若者を中心とした大群衆が付き添う。警察がそれを規制しようとして衝突が起こることが頻発している。8月13日にはキリマンジャロ州ムワンガでTANU-CCMの古参政治家の葬儀があり、キクウェテ大統領が参列したが、ロワッサも参列しようとして警官隊に阻止される事件が起きた。盟友関係は完全に決裂した模様である。キクウェテによるロワッサ個人攻撃も始まった。

 ロワッサは「警察の横暴さが分かった」とコメントしたが、今までは権力側(元首相)であったから、構わなかったのだろう。警察を管轄する元内務大臣だった元議員もロワッサを追ってCHADEMAに入ったら、警官隊と衝突し、警官に悪態をついたとして、逮捕されてしまった。ロワッサが選挙運動で、ダルエスサラーム郊外の市場を訪ね、露天商と話したり、その後ダラダラという公共バスに乗って街中に向かうという庶民派をアピールする新しい運動スタイルをやったら、即翌日には警察が「騒動が起きる危険がある」として禁止されてしまった。

 CCMは8月23日、ダルエスサラーム最大のジャングワニ広場で集会を開き、選挙運動の第一声を上げたが、UKAWAのそれはいったん禁止され、8月29日に認められた。そこでも警戒体制が敷かれたが、万人といわれる(CCMの3倍という)聴衆が集まり、大きな衝突はなく終わった。ロワッサは警察の政治的中立を訴えているが、タンザニアの伝統である警察・軍の政治不介入が守られることを期待したい。

 それ以外の野党もないわけではなく、大統領候補を擁立した野党もある。NEC(全国選挙委員会)から大統領候補届け出用紙を取ったのは全部で12党で、うち提出したのが11党、NECの審査により立候補が認められたが8党だった。CCMとCHADEMAを除く6党の候補を列挙すると、マクミラン・リモ(51歳、TLP)、ハシム・ルングウェ(66歳、Chauma)、アンナ・ムギウィラ(56歳、ACT-Wazalendo)、ルタロサ・イェンバ(49歳、ADC)、ジャンケン・カサンバラ(54歳、NRA)、ファフミ・ドヴトゥワ(57歳、UPDP)である。なお、申請して失格になったのはDP、Tadea、CCKで、申請用紙をもらって提出しなかったのはAFPで、ほかにSauとAPPT-Maendeleoの2党はUKAWA所属ではないが、ロワッサを支持することを表明している。

📷 ロワッサの行進 『The Citizen』2015年8月11日号

 さて、国会議員選挙の候補者の方である。7月13日になってNECから選挙区が前回の239から26選挙区増えることが発表された。行政区分の変更とダルエスサラームなどの大都市では人口増加による選挙区分割である。CCMの大統領候補指名選挙に手を挙げていた37名の落選者のうち、ほとんどの高齢者(60歳以上)は公職引退を表明したが、若手(40~50歳代)は国会議員選挙指名を求めることを表明した。予定の行動だろう。8月に入り各選挙区でCCMの予備選が行なわれたが、そこでも多少の騒擾は起こった。その過程で5人の現職大臣・副大臣など有力者の落選も起きた。また再選を求めた国会議員のうち51人(うちCHADEMA議員2人)が予備選で敗退したという報道があった(予備選で首位でなくても党の裁定でひっくり返ることも稀にはある)。

 CCMの国会議員候補のなかに、エスクロウ・スキャンダルで倫理委員会に訴追された2名(ティバイジュカ元土地相とチェンゲ元司法長官)も入っている。ほかにスキャンダルで疑惑の人とされた候補たちもいる。日本でもかつてはあるいは現在でもある程度はそうだったように、地元の道路、診療所、学校の建設に努力した「利益誘導型」が地元民の評価は高い。運輸大臣としてダルエスサラーム市内列車の導入を成功させたムワケンベ議員も、地元ではさほど評価されていないようで薄氷の予備選勝利であったらしい。ほかの南部の選挙区では「党のことより選挙区を優先しろ」とプラカードを持った地元民のデモの写真も載っていた。

 UKAWAは8月17日に国会議員候補のUKAWAを構成する4党への選挙区の分配を発表した。選挙区は265であるが、そのうちの253選挙区分である。残る12選挙区は各政党間の調整がまだついていないとのことであった。内訳はCHADEMA138、CUF99、NCCR12、NLD3となっている。ザンジバルの50選挙区がすべてCUF候補だから、本土部分に関してはCHADEMAが68%を占めている。

 8月24日、対立候補が不在で、CCM候補が無投票当選とされた選挙区が5つ出た(前回は14選挙区だったという)。UKAWAは全選挙区に候補を擁立すると言っていたから、何かの間違いだろうと思ったが、書類不備などを理由に失格となったらしい。失格とされた野党候補のうちには異議申し立てをし、裁判所の判断を待っている選挙区もあるので確定ではない。そのなかにタンガ州のブンブリ選挙区があり、当選者としてジャニアリ・マカンバの名前があった。マカンバは大統領候補指名にも立候補していて、最終の5人のなかに残った若手代表である。父親はCCM元書記長で、自身もCCM書記局出身という党官僚二世である。大統領指名運動でもロワッサに次いでお金を使った派手な運動をした。注目すべきは2期連続の無投票当選ということだ。これをどう解釈するべきなのか。

📷 UKAWA候補の分配 『Mwananchi』2014年8月21日号  CCMの選挙マニュフェストは25項目らしいが、優先分野は4つになっている。「貧困削減」「若者の非雇用の解消」「腐敗・汚職との戦い」「平和・平穏・統一の維持」である。具体的な方策はマニュフェストを見ていないのでわからないが、ほかの野党のマニュフェストも似たり寄ったりではないか。つまり、タンザニアの現在の課題は「貧困削減の方策」「若者の雇用」「保健施設の危機的状況の打破」「教育の施設、教員不足の解消」「農牧業の振興」「腐敗・汚職対策」ということで、その多くは過去数十年変化していないと思われる。金の輸出や観光業の伸びが国民の大多数には裨益せず、近い将来有望な天然ガスの利益がどこへ入るのかということだろう。CCMのマニュフェストでは憲法改正案には触れられていない。争点にしないという意図だろう。

 UKAWAというか、ロワッサは選挙マニュフェストのトップに「教育」を挙げた。小学校から大学までの公教育の無償化を公約に掲げ、そのアイデアを英国のブレア元首相からもらったと演説した。その財源はどこにあるかはわからないが。ともあれ、マグフリ(CCM)もロワッサ(UKAWA)もさらにほかの政党の指導者も、「Mabadiliko(変化)」というスローガンを使っている。オバマの選挙スローガン「チェンジ」の流用だろうか。停滞感に悩む地方の農民や失業青年を対象としたスローガンだろう。長期政権与党であったCCMが「変化」を訴えるというのも奇妙なものだが、与党候補がよりクリーンなイメージがあり、野党の候補が過去のスキャンダルを抱えていて、それを与党が攻撃しているという構図もおかしなものだ。

 ザンジバル自治政府の選挙の方である。大統領選挙については、従来、CCMとCUF候補との一騎打ちであったが、今回はほかの政党も何と10党も指名用紙を取った(最終的に何人が立候補を認められたかの報道はない)。もちろん大勢は再選を狙うシェイン大統領(CCM)と、今回で5回目の出馬になるセイフ・シャリフ・ハマド第一副大統領(CUF)との一騎打ちになることは変わりない。ハマドの執念が実るかどうか。CUF創設以来の幹部党員でペンバ島選出の国会議員であったハマド・ラシッド・モハメッドが別の政党(ADC)を作って、出馬するのが不安要因である。一方のCCMの方も、憲法改正案をめぐってザンジバル革命の立役者の一人であったハッサン・ナソロ・モヨを追放したり、古参党員の息子の元大臣がCUFに移籍したりと不安な要素を抱えている。

 ザンジバル議会の方は今回4議席が増えて54選挙区となった。増加したのはすべてウングジャ島である。人口が増えているのだから当然といえばそうだが、ペンバ島は強固なCUFの地盤で、かつてはウングジャ島29議席に対しペンバ島は21議席のバランスだった。その後、ペンバ島は18議席からさらに16議席に減らされた。今回はウングジャ島が34議席だから倍以上の比率になった。ザンジバルは毎回熾烈な選挙戦になるが、主戦場はウングジャ島でCUFがどれだけ票を獲得できるかだろう。(なお、連合政府の議会のザンジバル選出は50議席で変わらず)。

📷 CCMの集会(ダルエスサラーム) 『The Citizen』2015年8月24日号

 問題が多かった選挙人登録についてである。5年毎の総選挙の度に更新される選挙人登録簿は、今年は憲法改正案の国民投票と機械(BVR)登録の導入で、大きな話題を提供し、各地で混乱も起きた。8,000台あまりのBVRを購入する予算がなかなか配分されず、2月23日に始まったンジョンベ州の登録のころには、250台しか届いていなかったらしい。NECの無能、あるいは政権与党寄りの姿勢はかなり批判を浴びていた。ダルエスサラーム州での登録作業が終了したのは8月4日である。ザンジバルでの登録はZEC(ザンジバル選挙委員会)の管轄で行なわれ、ほとんど報道がない。

 NECのHPには7月21日段階で17州の選挙人登録数字しかアップされていない。NBS(国家統計局)による、投票日時点での18歳以上の見込み有権者数は2,425万人あまりとされ、この17州では1,308万人で、登録者数は1,289万人で、見込みの99%となっている。NECは最初から目標の数字をNBSの数字の90%にしているから、達成率110%と誇っている。目標を大幅に下回っているのはキゴマ州の75%で、次いでカゲラ州(85%)、シミユ州(90%)が低い数字、逆にンジョンベ州(139%)、カタヴィ州(117%)、ルヴマ州(106%)が高い数字であった。

 その後の新聞報道で拾ったところでは、アルーシャ県は32万人で目標の121%と大きく上回った。野党地盤のアルーシャでは意図的に登録率を低く抑えるだろうという予測は外れたのか。ダルエスサラーム州であるが、NBSの推定値は293万人あまりで、登録者数は速報値で283万人弱で96%だと思われるが、どういうわけかNEC発表では101%となっていた。数字の操作なのか、NECは低く目標数字を公表する傾向があるようだ。現在は、二重登録の検査が進行中である。総選挙前には正式の確定数字が発表になるはずだ。

 私の周辺の知人たちに訊いてみた。どうしても男性が多くなり、年齢層も若者が少ないので、正確なサンプル調査とは程遠い。ダルエスサラーム在住者に限ってである。訊いたのは45人でうち女性は11人。年齢は10代2人、20代7人、30代9人、40代14人、50代9人、60代3人、70代1人である。うち、登録しなかったと明言したのは2人だけで、高い登録率である。登録したかったけどできなかったという人は私の聞いた限りではいなかった。もちろん個人的な理由で本当のことを言いたくない人はいるかもしれない。この人たちが10月25日の総選挙にどれだけ投票に行くかを見ておきたい。

☆参照記事☆ ・『Mwananchi』2015年月8日1日~31日号 ・『The Citizen』2015年8月1日~31日号 ・『The Daily News』2015年8月24日号 ・Tume ya Taifa ya Uchaguzi,Tanzania(http://www.nec.go.tz/)

(2015年9月1日)

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